No.40 EUで胃腸障害のために伝統的に使用されているハーブの有効性は腸内細菌叢と関わっているのか
胃腸障害の治療には、多くのハーブが伝統的に使用されてきた。欧州医薬品庁のハーブ医薬品委員会(HMPC)が発表したモノグラフによると、現在、EUでは、従来の使用に基づく胃腸障害の治療に44の薬用植物が推奨されているという。
主な適応症は、消化不良や過敏性腸症候群(IBS)などの機能性および慢性胃腸障害であり、これら用いられているハーブは、胃液分泌の刺激、鎮痙および駆風、胃腸粘膜の鎮静、緩下、収斂、止瀉、および抗炎症といった典型的な作用を示す。
腸内細菌叢が私たちの健康状態に大きく関わることはよく言われているが、これら胃腸障害に良いとされるハーブが、人間の腸内細菌叢にどのように関わるかについては、これまでほとんど考慮されていなかった。
今回注目するレビューは、これらのハーブと腸内細菌叢との相互作用を調査し、公開された研究論文を特定して、その内容を評価しているものだ。
この調査によると、腸内細菌叢との潜在的な相互作用に関しては、これまでに胃腸疾患の治療のためにEMAモノグラフで検討された44の薬用植物のごく一部のみで研究がされているそうだ。
これらの薬用植物のうち6つで実施された8つの関連するin vitro研究、7つの薬用植物を含む実験動物で実施された17のin vivo研究、および2つの植物で実施されたヒトでの3つの試験について特定し,内容を評価し,以下の知見を得たと報告している。
1)イヌリンをプレバイオティクスとして用いることについては検証研究があり、そのなかではチコリ根の有効性活について非常に集中的に調査されてきた。
2)亜麻仁の食物繊維は、腸内細菌叢による代謝で短鎖脂肪酸となり、プレバイオティクス効果をもたらすことも知られている。これは、亜麻仁を摂取することにより腸内細菌叢を良い状態に調節することができる可能性を示唆している。亜麻仁には、リグナンや多価不飽和脂肪酸,その他のフィトケミカルも存在し、腸内細菌叢と相互作用することが示されている。
3)タンニン,アントシアニンは,代謝されず未変化のまま高濃度で結腸に達するため、腸内細菌叢に影響を与える。これらは特定の腸内細菌によって集中的に代謝され、生物活性のある小さな代謝物の生成につながる。さらに、これらの物質との相互作用が、腸内細菌叢にプレバイオティクスのような効果を及ぼす可能性もある。
4)リコリスの含有する成分についても腸内細菌による代謝が確認されているが、腸内細菌叢に対するそれらの影響については、さらに詳細に調査する必要がある。
5)エッセンシャルオイルおよびセコイリドイドを含有する植物とヒト腸内細菌叢との相互作用を調査した研究は限られている。ただし、クルクミン、ショウガオール、ロスマリン酸などの成分は、ヒトの腸内細菌叢によって代謝されることが示されており、潜在的な腸内細菌叢の調節効果が示唆されている。
ここに登場するプレバイオティクスとは「大腸の特定の細菌を増殖させることなどにより、宿主に有益に働く食品成分」と定義されており,私たちにとって有益な腸内細菌がこれらを材料に代謝することによって腸内環境が改善されるというものだ。
一方,プロバイオティクスは有益な菌そのものを摂取する。イヌリンを多く含むチコリ根など,これまでの有効性を裏付ける研究が多くなされており,ハーブのプレバイオティクスとして有効性が、より詳細にわかっていくことが大いに期待される。
いずれにしても胃腸障害に伝統的に使用されている多くのハーブと腸内細菌叢との相互作用は、今後の研究に期待するところも大きく、将来の研究に広大な分野を提供していると言えるだろう。
〔参考文献〕 Thumann TA et.al., The role of gut microbiota for the activity of medicinal plants traditionally used in the European Union for gastrointestinal disorders. J Ethnopharmacol. 2019 Dec 5;245:112153.