アロマテラピーで用いる精油は、植物から抽出する天然物であり、数えられないほど多くの成分を含有している。精油を摂り入れるということと、医薬品を摂ることの大きな違いは、医薬品が単一もしくは限られたいくつかの成分によって構成されていることと比較して、精油は成分分析で同定したもの、まだ同定していないものも含め、数千といった成分で構成されていることだ。これらが相乗作用など、お互いに働きかけ合いながら、ある性質を生み出すことは容易に考えられ、アロマテラピーで精油が示す様々な作用には、これらの各成分の含有比率も関係し、作用発現にはこれら多種多様な成分が共存することが要因となっている場合も多いであろう。
今回紹介する論文では、精油を皮膚に塗布して経皮吸収する場合、含有される成分がお互いどのように作用し合うかについて経皮吸収試験機である静置型フランツ拡散セルを用いて、ヒト皮膚の表皮モデルに、モノテルペン及びフェニルプロパノイドについて検討している。
その結果、モノテルペンであるリモネンは、フェニルプロパノイドのオイゲノール、シトロネラールの皮膚浸透性を高めた。そして同じくモノテルペンのαーピネンとミルセンはフェニルプロパノイドのフェニルエタノールの浸透性を高めることが明らかとなった。また、βーピネンは、メチルオイゲノールの浸透性は高めるが、ゲラニオールについては高めなかった。
これらより、精油中に存在しているモノテルペン、フェニルプロパノイドが相互の作用し、混合物としての精油の皮膚浸透性に影響を与えていることが示唆された。
本論文では、モノテルペン、フェニルプロパノイドという、精油成分を構成する大きな2つのグループ間での作用を明らかにしている。著者であるSchmittらは、この論文に引き続き、ローズ油に限定して、同様な浸透性の研究を行っている。天然物であるからこそ発現する、こういった性質は生物の生命のしくみの一端を表現しているともいえよう。
〔参考文献〕Schmitt S, Schaefer UF, Doebler L, Reichling. interaction of monoterpenes and phenylpropanoids on the in vitro human skin permeation of complex composed essential oils. J. Planta Med. 2009;75(13):1381-1385.