Greeting ご挨拶
私は2009年から南太平洋のフィジー共和国で薬用植物の調査をしています。フィールドにしているラケンバ島は首都スバから小型機で2時間弱の離れ島で,今でも電気は一日のうち夕方に一時間半ほど通るだけ,喉が乾いたらペットボトルの水ではなく椰子の木に登り実を落として果汁を飲む,今日の夕食のお魚を海に獲りに行く,ヒーラーにマッサージをしてもらったらダロイモ4本でお礼するといった物々交換が成り立っています。
ハーブの文化は,受け継ぐことと新しく産むことといった,二つの要素で成り立っています。フィジアンハーブは,母から子へ,大人から子供へと伝承されるもので,体温が伝わり息遣いを感じるような近いつながりを持つ,彼らの生活そのものが反映されています。調査をしながら教えてもらった大事なことの一つは,「人間のもつ力は大きい」ということでした。自分の近くに存在する自然をしっかりととらえ,考え,そしてメディスン(薬)を選んだり,必要なものを創り上げたりする・・。形がないところから必要なものを創る彼らの力は,自分たち人間のもつポテンシャルを知らしめてくれるものでした。
フィジーに暮らす友人たちと付き合うようになり,彼らの知恵,彼らの文化が呼び起こしてくれるものは,地域を超えて,私たち人類にとって,根本的に大切なことであると確信しました。同じ土台に立つ植物を見つめながら,植物の力を実感することは,私たちのイマジネーションやクリエイティビティを呼び覚まして,ハーブと人間それぞれの野性(生まれたままの性質,本質)を知るための入口を開き,最良の関係性でお互いを活かすことにつながる・・。
ハーブとはそういうことと思ったのです。
そんなフィジーも携帯電話やインターネットが入り込み,電気やお金が必要な時代に移りつつあります。太陽のような友人たちが,同じ地球の上で植物の力と人間の知恵で編み上げられた文化を継いでいることは大きな尊敬を私の中に産み,それを日本の皆さんに伝えたい気持ちと共に,現代社会の変化の只中にあるフィジーの若者や子供達に,違う国から彼らの文化の素晴らしさを伝えたい気持ちや,彼らに今までのような豊かな時間の使い方を続けてもらいたい気持ちも出てきました。そして次の世代に正しい仕事を用意するのは大人の役目だと思うようにもなりました。
植物の力は人の力と共に,人の力は植物の力と共にあることを実感しながら。
株式会社トトラボ代表
村上志緒
(村上は右/ネーナの三女シニアと)